2020/6/12 相続

【相続専門会計士・税理士の相続コラム】家族信託の成功例と失敗例

こんにちは。相続専門の公認会計士・税理士の石倉英樹です。
先日私の事務所にご相談にいらしたのは、70代後半の男性。「もし自分が新型コロナウイルスに感染してしまったら、最悪の場合そのまま亡くなってしまうかもしれない。今まで先送りにしてきた相続対策を今のうちにやっておきたい。」というご相談です。なかでも、お客様が特に関心を示されたのは、生前から財産の名義を子供に託すことが出来る『家族信託』という仕組みです。
本日のコラムでは、生前対策として認知度が高まっているこの家族信託について、その「成功例と失敗例」を実例をもとに解説いたします。
(守秘義務を守り、個人が特定されるような情報を伏せてご紹介します)

家族信託が注目される理由

日々相続のご相談をお受けしていると、今回の新型コロナウイルスの影響で「終活」に対する皆さんの意識が一段階上がったように感じます。いつ自分も感染するか分からない。もし自分の親が感染したら。そんな心理的影響が、生前対策を意識する背景にあるのかもしれません。
相談にいらっしゃるお客様が関心の高い対策は大きく2つあります。一つは、亡くなった後のことを考えた対策、つまり「遺言書作成による遺産相続対策」です。そして、もう一つは、今回の新型コロナウイルスや認知症等の病気になった場合の対策、つまり「家族信託による生前の財産管理」です。この家族信託を一言で説明すると、生前に自分の財産の名義を信頼できる子供、孫などに変えておくことで、認知症やその他の病気により自分で判断する力を失った後でも、安心して財産の管理や運用を任せることが出来る仕組み、と言えます。

家族信託が注目される理由

家族信託の成功例

ご相談者は都内に住む50代の佐藤さん。
すでにお母様はお亡くなりになっていて、80代のお父様が実家の戸建てに一人で住んでいました。月に一度、実家に帰る佐藤さんはお父様の物忘れが最近増えてきたことを心配してご相談にいらっしゃったのです。家族会議の結果、もしお父様が認知症になり一人での生活が難しくなった場合には、近所の介護施設に入所し、誰も住む予定がない実家は売却するとの方針が決まりました。しかし、実家の名義がお父様のままだと、認知症が進行し判断能力を失ってしまった場合には、実家の売却による介護費用の工面が難しくなります。
そこで、私たちがお父様、佐藤さん、その他の相続人の方々を交え、生前に実家の名義をお子さんに変更し、認知症になった後でも自由に財産管理ができる家族信託のご提案をしました。当初は、財産の名義が変わることについて難色を示していたお父様でしたが、何度かご自宅に伺いしご説明を重ねるうちにお父様も納得し、家族信託の契約を無事に結ぶことが出来ました。
その半年後、お父様は認知症が進行しお一人での生活が難しくなったため、近所の介護施設に入所されました。しかし、家族信託によってすでに実家の名義はご長男である佐藤さんに変わっていましたので、佐藤さんが実家の売買契約を取りまとめ、無事にお父様の介護費用の工面をすることが出来ました。

家族信託の失敗例

ご相談者は埼玉県に住む30代の田中さん。
田中さんは、親子3世代でご両親、祖母と同居生活を送っていました。田中家の財産は85歳になるお婆様がそのほとんどを所有しており、自宅の土地・家屋のほかに、戸建て貸家が3棟、広めの月極駐車場、金融資産が約1億円という資産家です。
田中さんは最近お婆様の物忘れが増えてきたことが気になり、相談にいらっしゃいました。相続対策のために土地の有効活用をしたいが、もし認知症を発症して判断能力を失ってしまった場合には、相続対策がストップしてしまい多額の相続税を払わないといけない。そこで、私たちはお婆様から田中さんへの家族信託をご提案しました。
ところが、そんなに急に物忘れが進むことは無いだろう、というご家族の判断のもと家族信託の実行はいったん見送られることになります。田中さんから再びご連絡が入ったのは、それから約1年後のことです。実は、あの後お婆様が介護施設に入所することになり、認知症が進行してしまったとのこと。急いで家族信託の契約を締結したいが、まだ間に合いますか?というお問い合わせでした。
翌日、私たちはお婆様が入所している介護施設に伺いましたが、認知症が進行しており家族信託の契約を締結することは困難という判断に至りました。現在お婆様はご存命ですが、土地の有効活用による相続対策は行えないため、ご相続が発生した場合には1億円以上の相続税を支払わなければなりません。

実例からわかること

家族信託は、元気なうちに財産の名義を信頼できるお子様などに変えておくことで、認知症やその他の病気によりご本人が判断能力を失った後でも、財産の管理や運用を行うことが出来る仕組みです。しかし、家族信託も契約行為ですので、ご本人が元気なうちでないと契約を結ぶことはできません。
しかし、家族信託のご相談にいらっしゃるご家族の9割以上は「親が認知症と診断された」または「介護施設に入所することが決まった」など、すでに親御さんの体調に変化が表れている場合がほとんどです。「家族信託の失敗例」で解説したご家族のように、いったん家族信託の契約のタイミングを逃してしまうと、その後契約を結ぶことは難しい場合が少なくありません。
今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響で、生前対策のご相談が増えています。誰しも、いつどうなるか分からない状況の中で「備えあれば憂いなし」という心の持ち方が必要な時代なのかもしれません。


プロフィール

プロフィール

石倉 英樹
石倉公認会計士事務所所長

相続対策専門の公認会計士/税理士として活動する傍ら、『笑って・学んで・健康に!』をモットーとして、硬いテーマとなる相続問題や認知症対策、振り込め詐欺対策などを笑いに変える社会人落語家。
東京・埼玉を中心に口コミで噂が広がり、終活落語の高座の数は年間80回を超える。

https://omiya-souzokuzei.com/

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