2019/5/20 相続

【相続専門会計士・税理士の相続コラム】あきらかにみる

こんにちは。相続専門の公認会計士・税理士の石倉英樹です。

先日、あるご相談者の方からこんなご質問を頂きました。

「テレビや新聞を見ていたら、『終活対策』は早めにやっておいた方がいい、と言っていましたが、まず何からやればいいですか?そもそも、終活ってしないといけないんですか?」
本日のコラムでは、この終活ブームについてお話ししたいと思います。

終活ブームって何?

「終活」という言葉が世の中に広まり始めたのは、2010年頃。当時の流行語大賞などにノミネートされ、多くの方が耳にするようになりました。この終活とは、一言で言うと「自分の人生の終わりに向けた活動」。具体的には、自分が亡くなった際の葬儀やお墓の準備、身の回りの生前整理や遺産相続で揉めないような遺言書の作成などを意味します。
しかし、「何から始めるのがいいのか?」「いつから始めるのがいいのか?」は、人それぞれです。中には「そもそも、終活って必要なんでしょうか?」と考える方がいてもおかしくありません。「みんなが受験するから自分も受験する」、「みんなが就職をするから自分も就活をする」、「みんなが結婚するから自分も婚活をする」。そして「みんながやっていると聞いたから、自分も終活をする」。そんな『終活ブーム』に流されることに違和感を覚える方もいらっしゃるでしょう。

昔から日本には「立つ鳥跡を濁さず」という諺がある一方で、「後は野となれ山となれ」という諺もあります。ご自身の終末期にどういう生き方をされるかは、まさに人それぞれ。人生それぞれで良いと思います。終活はあくまで手段であって目的ではありません。より良い人生を過ごすという目的があって初めて、終活という手段が意味を持ってくることでしょう。

いつから始める?

終活は人それぞれ、と言ってみたものの、やはり他人はどうしているのか気になるのが世の常です。最近は、芸能人でも終活に取り組んでいる方が増えているようですので、ちょっと覗いてみましょう。

有名なのは、夫婦で終活に取り組んでいる中尾彬・池波志乃夫妻。2007年に中尾さん が急性肺炎になったことをきっかけに終活を始められたそうです。具体的には、身の回りの家財の生前整理やお墓の購入、延命治療を受けるか否かの意思表示など、ご夫婦で話し合いながら終活を進めています。

一方、50歳を前に終活を終えられたのは坂上忍さん。自分が亡くなった後の愛犬のこと、事務所のこと、財産のことを整理し、遺言書の作成も済まされたようです。40代で終活を済ますというのは一般的には早いと感じる方が多いと思いますが、まさに終活のタイミングは人それぞれ。坂上忍さんにとっては、きっとベストなタイミングだったのでしょう。

この二組に共通しているのは、誰かに言われて終活を始めたのではなく、ましてや終活ブームに踊らされたのでもなく、ご自身の内なる声に従って行動されている点と言えるでしょう。自分にもしものことがあった時、周りの人、遺される人への思いやりをそのまま行動に移した、と言ってもいいかもしれません。

時代は「平成」から「令和」へ

平成31年4月30日、天皇陛下が退位され、元号が平成から令和へと改元。天皇陛下は上皇へ、皇太子が天皇陛下に即位され、皇室の世代交代が行われました。

では、上皇はどういうお気持ちから生前退位をお考えになったのでしょうか?平成28年8月8日、「象徴としてのお務め」についてこんなお言葉を残されています。

『戦後70年という大きな節目を過ぎ、2年後には、平成30年を迎えます。私も八十を越え、体力の面などから様々な制約を覚えることもあり、ここ数年、天皇としての自らの歩みを振り返るとともに、この先の自分の在り方や務めにつき、思いを致すようになりました。本日は、社会の高齢化が進む中、天皇もまた高齢となった場合、どのような在り方が望ましいか、天皇という立場上、現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら、私が個人として、これまでに考えて来たことを話したいと思います。』

『(中略)何年か前のことになりますが、2度の外科手術を受け、加えて高齢による体力の低下を覚えるようになった頃から、これから先、従来のように重い務めを?たすことが困難になった場合、どのように身を処していくことが、国にとり、国?にとり、また、私のあとを歩む皇族にとり良いことであるかにつき、考えるようになりました。既に八十を越え、幸いに健康であるとは申せ、次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています。』

『(中略)天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、これまでにも見られたように、社会が停滞し、国?の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます。更にこれまでの皇室のしきたりとして、天皇の終焉に当たっては、重い殯(もがり)の行事が連日ほぼ2ヶ月にわたって続き、その後喪儀にに関連する行事が、1年間続きます。その様々な行事と、新時代に関わる諸行事が同時に進行することから、行事に関わる人々、とりわけ残される家族は、非常に厳しい状況下に置かれざるを得ません。こうした事態を避けることは出来ないものだろうかとの思いが、胸に去来することもあります。』

(宮内庁HP:「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」より一部抜粋)

このお言葉から感じるのは、天皇としての重い務めと日々向き合われながら、ご年齢が 80歳を超え加齢に伴う体力の低下をお感じになる一方で、国?の暮らしへの影響、あとに続く皇族への配慮など、様々な感情と向き合われている姿を感じ取ることが出来ます。

特に、「全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています。」というお言葉からは、生前退位について時間をかけてお考えになったからこその、一種の「諦め」を感じます。

あきらかにみる

「諦め」と言うと、願いが叶わず断念する、挫折する、など一見するとマイナスのイメージとして捉えられる言葉ですが、実はその語源は仏教用語で「あきらかにみる」であると言われています。

つまり、諦める(あきらかにみる)とは、物事の道理をわきまえることによって、自分の願いが達成されない理由を明らかにし、その道理を納得した上で断念をすること、と言えます。

人の命には寿命があり、高齢になるにつれて今まで当たり前に出来ていたことが次第に出来なくなる、という道理を受け入れることが、本来の意味での「諦め」。そして、その諦めの境地に立つことで、周囲への感謝、遺される人たちへの想いがその人の中から浮き上がってくるのかもしれません。

そう考えると、終活を何から始めるかは人それぞれ、いつから始めるのかも人それぞれ。良いも悪いも、早いも遅いもなく、まずは「諦める(あきらかにみる)」ということが何より大切なんだろうと思います。


プロフィール

プロフィール

石倉 英樹
石倉公認会計士事務所所長

相続対策専門の公認会計士/税理士として活動する傍ら、『笑って・学んで・健康に!』をモットーとして、硬いテーマとなる相続問題や認知症対策、振り込め詐欺対策などを笑いに変える社会人落語家。
東京・埼玉を中心に口コミで噂が広がり、終活落語の高座の数は年間80回を超える。

https://ishikura-cpa.jp/

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