2019/2/14 税金

【相続専門会計士・税理士の相続コラム】平成31年度税制改正大綱

こんにちは。相続専門の公認会計士・税理士の石倉英樹です。

今回のコラムで取り上げるのは、「平成31年度税制改正大綱」を中心とした、気をつけておきたい今年の変更点です。さて、平成最後の年にどのような改正が予定されているのでしょうか?今回は相続対策の観点から、特に個人の方々に影響が出やすい項目を読み解いていきたいと思います。

「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除」の見直し

例えば、身内が亡くなり、空き家となってしまった家屋等を売却することになった際、その空き家が高く売却できた場合には、不動産の譲渡益が発生することになります。その場合には、この譲渡益に対して通常約20%程度の譲渡所得税・住民税が課税されます。

しかし、空き家対策の一環として、平成28年度税制改正で「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」が設けられたことから、一定の要件を満たした空き家の譲渡の場合には、当該家屋又は土地の譲渡所得から3,000万円を特別控除することで、譲渡所得税・住民税の軽減が図られてきました。

ただし、今までは、被相続人が老人ホーム等に入所しており、相続開始直前において自宅が空き家となっていたようなケースでは、老人ホームに入る前の自宅が『生活の本拠』とみなされないことから、この「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」を適用することはできないという問題がありました。

そこで、今回の見直しでは、老人ホーム等に入所をしたことにより被相続人の居住の用に供されなくなった家屋及びその家屋の敷地の用に供されていた土地等は、次に掲げる要件その他一定の要件を満たす場合に限り、相続開始直前においてその被相続人の居住の用に供されていたものとして、空き家譲渡特例の適用が可能となる見込みです。

  • (1)被相続人が介護保険法に規定する要介護認定等を受け、かつ、相続の開始の直前まで老人ホーム等に入所をしていたこと
  • (2)被相続人が老人ホーム等に入所をした時から相続の開始の直前まで、その家屋について、その者による一定の使用がなされ、かつ、事業の用、貸付の用又はその者以外の者の居住の用に供されていたことがないこと

なお、本特例の適用期間は、今年の12月31日までとされていましたが、4年間延長され適用期間が2023年12月31日までに変更となっています。

「教育資金、結婚・子育て資金贈与」の見直し

続いては「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」、いわゆる「教育資金の一括贈与」の見直しです。この制度は、30歳未満の子供や孫に対して贈与をする場合、教育資金に使う目的であれば「1,500万円」まで一括して渡しても贈与税がかからない、というもの。ここでいう教育資金とは、学校に支払う授業料や入学金だけでなく、学習塾・水泳教室・ピアノ教室など、学校以外への習い事への支払いも含みますので、お子さんやお孫さんが就学児の場合には、一括してまとまった資金を非課税で贈与することが可能です。

しかし、所得制限のない現行の仕組みのままでは、経済格差の固定化を招くとの批判があることから、平成31年度税制改正で次のような見直しを行った上で、その適用期限が2年延長されます。

  • (1)教育資金の信託等をする日の属する年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、非課税措置の適用を受けることができない。
  • (2)教育資金の範囲から、学校等以外の者に支払われる金銭で受贈者が23歳に達した日の翌日以後に支払われるもののうち、教育に関する役務提供の対価、スポーツ・文化芸術に関する活動等に係る指導の対価、これらの役務提供又は指導に係る物品の購入費及び施設の利用料を除外する。(ただし、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するための費用は除外しない。)
  • (3)教育資金の信託等をした日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合において、受贈者が当該贈与者からその死亡前3年以内に信託等により取得した信託受益権等について本措置の適用を受けたことがあるときは、その死亡の日における管理残額を、当該受贈者が当該贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなす。(ただし、その死亡の日において、①当該受贈者が23歳未満である場合、②当該受贈者が学校等に在学している場合、③当該受贈者が教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合のいずれかに該当する場合を除く。)
    (注)上記の「管理残額」とは、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額のうち、贈与者からその死亡前3年以内に信託等により取得した信託受益権等の価格に対応する金額をいう。
  • (4)教育資金の受贈者が30歳に達した場合においても、その達した日において上記(3)②又は③のいずれかに該当するときは教育資金管理契約は終了しないものとし、その達した日の翌日以後については、その年において上記(3)②若しくは③のいずれかに該当する期間がなかった場合におけるその年12月31日、又は当該受贈者が40歳に達する日のいずれか早い日に教育資金管理契約が終了するものとする。

なお、父母・祖父母から、結婚や子育てに関する資金を一括でもらった場合、1,000万円までであれば贈与税が非課税となる、いわゆる「結婚・子育て資金の一括贈与」についても、教育資金の一括贈与非課税措置と同様に、資金の信託等をする年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、非課税措置の適用を受けることができないとした上で、その適用期限が2年延長されます。

消費税増税に伴う「住宅取得等資金贈与の非課税の特例」への影響

今年の10月1日に消費税増税が予定通り行われた場合、「住宅取得等資金贈与の非課税の特例」に影響を与えます。この特例は、2021年12月31日までの間に父母や祖父母など直系尊属から住宅の新築、取得又は増改築等に使う資金を贈与してもらった場合には、所定の要件を満たせば、一定の限度額まで贈与税の課税対象とならない非課税制度です。その非課税枠は、「住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日」がいつの期間なのかによって下記の表のように変化します。

住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅
平成27年12月31日まで 1,500万円 1,000万円
平成28年1月1日から平成32年3月31日まで 1,200万円 700万円
平成32年4月1日から平成33年3月31日まで 1,000万円 500万円
平成33年4月1日から平成33年12月31日まで 800万円 300万円

しかし、今年の10月1日に予定されている消費税増税により、消費税率が現状の8%から10%に上った場合、この非課税枠は以下の表のように拡大されることになります。

住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅
平成31年4月1日から平成32年3月31日まで 3,000万円 2,500万円
平成32年4月1日から平成33年3月31日まで 1,500万円 1,000万円
平成33年4月1日から平成33年12月31日まで 1,200万円 700万円

最後に、民法改正の影響

平成31年度税制改正と並んで、今年注目しておきたいのが大幅な民法改正です。1980年以来約40年ぶりの大改正で、しかも相続に関する改正点が多いため、ぜひ押さえておきましょう。中には、すでに変更になっている項目もあります。

まず1つ目は、「遺言制度」についての見直しです。誰に・どの財産を・どれだけ遺すか予め遺言に書いておけば、いわゆる「争族」に発展する可能性を抑えることができますが、日本人で遺言を遺して亡くなる方は少ないのが現状です。

そこで今回、次のように改正されます。まず、「自筆証書遺言」の作成についての見直しです。今までは、遺言の全文を「手書き」しなければなりませんでした。しかし、今年の1月13日からは、遺言の中の「財産目録」についてはパソコンによる作成が認められることになりました。なお、偽造を防ぐために、財産目録にもすべて署名・押印する必要がありますが、遺言を作成する手間が大幅に省力化されます。

さらに、2020年7月10日からは、法務局での「自筆証書遺言の保管制度」が新たにスタートしますので、遺言書の紛失・偽造を防ぐ効果が期待されています。なお、この保管制度を利用した場合には、従来必要だった家庭裁判所による検認が不要となります。

2つ目は、「預貯金の引出し」についての見直しです。多くの方がご存知の通り、相続が発生すると、亡くなった方の預金口座は遺産分割協議が終了するまで凍結されてしまいます。しかし、凍結されたままでは、葬儀費用の支払いや被相続人の家族の生活費の支払いが出来ないなどの不都合が生じる可能性があります。

そこで、今年の7月1日からは「預貯金の仮払い制度」が創設され、相続人が単独で一定額の預貯金の払戻しが認められるようになります。なお、その一定額とは、「相続開始時の預貯金額×共同相続人の法定相続分の3分の1」まで。たとえば、被相続人の預金が600万円あって法定相続人が2人の子どもの場合、法定相続分どおり分割すると1人当たり300万円ですが、引き出せるのはその3分の1の100万円ということです。(ただし、1つの金融機関から引き出せるのは150万円まで) 3つ目は、今年7月1日に施行される「特別寄与料請求権」です。生前に被相続人の介護などを行い、被相続人の財産の維持又は増加に寄与した場合には、その貢献度に応じて「寄与分」が与えられますが、今まではその対象者が「相続人」に限られていたため、例えば、長男のお嫁さんが義理のお父さんを介護していたとしても、そのお嫁さんは相続人ではないことから寄与分を受け取ることは出来ませんでした。

しかし、今回改正された民法第1050条によって、無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をした被相続人の親族(例えば、長男の嫁)は、相続の開始後、相続人に対し寄与に応じた額の金銭の支払いを請求できると定められました。これによって、介護をしてきた方の貢献が金銭面でも評価されることになりますが、その一方で遺産分けを巡って新たな火種になる可能性も否定できません。

 


プロフィール

プロフィール

石倉 英樹
石倉公認会計士事務所所長

相続対策専門の公認会計士/税理士として活動する傍ら、『笑って・学んで・健康に!』をモットーとして、硬いテーマとなる相続問題や認知症対策、振り込め詐欺対策などを笑いに変える社会人落語家。
東京・埼玉を中心に口コミで噂が広がり、終活落語の高座の数は年間80回を超える。

https://ishikura-cpa.jp/

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