不動産に関わる経済指標は複数ありますが、「どの経済指数を参考にすべきか。」「そもそも見方がわからない。」という質問も少なくありません。不動産に関わる経済指標とその見方について主要ポイントを読み解きます。
第1部 景気動向指数について
第2部 地価について
第3部 不動産と日本銀行統計について
第1部の今回は、景気動向指数について解説していきます。
永濱 利廣(ながはま としひろ) Toshihiro Nagahama
株式会社 第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
景気動向指数は、景気に敏感に反応する経済指標を合成した総合的な景気指標である。景気の方向性や量感の把握、さらには将来を予測するために用いられ、先進国等では戦前からこうした経済指標が作成されている。作成は内閣府が毎月行っており、当該月の翌々月上旬に速報値が、同月中旬に改定値が公表される。
景気動向指数は、景気がどれぐらいの強さで回復や後退をしているのかをとらえる「コンポジット・インデックス(CI)」として公表される。CIの作成に際しては、現時点で合計30種類の経済指標が用いられる。具体的には、生産に関連した生産指数や出荷指数、在庫に関連した在庫率指数、設備投資に関連した機械受注や法人企業設備投資、消費に関連した消費者態度指数や家計消費支出、商業販売額、その他、金融や企業経営、労働に関連した経済指標などである。
具体的なCIの作成方法としては、30の指標を3つに組み分けて採用系列の前月からの変化率を複雑な統計的な手法で合成し、基準年(現在は2000年)を100として指数化したもので、①景気に先行して動く統計を集めた「先行指数」、②景気に一致して動く統計を集めた「一致指数」、③景気に遅れて動く統計を集めた「遅行指数」という3つの指標がある。こうしたことから、「先行指数」を見れば今後の景気の動きが、「一致指数」を見れば景気の現状が、「遅行指数」を見れば景気の成熟度がそれぞれ判断できることになる。
なお、各指数の採用統計は図表4の通り、先行指数が11、一致指数が10、遅行指数が9となる。採用系列の中でも在庫率指数や失業率は低下した方が景気回復を意味するため、低下が改善となる逆サイクルであることには注意が必要である。
景気動向指数を作成する最大の目的は、景気が拡大しているのか後退しているのかを見分けて、その境目である景気の山と谷を見極めることである。この点で、景気変動の大きさやテンポを見るのに有効なのがCIである。CIは、採用系列の変化率を合成したものであるため、一般に「一致CI」が上昇している時には景気の拡大局面、低下しているときが後退局面となる。このため、「一致CI」の転換点の近くに景気の転換点も存在することになる。また、CIの変化の大きさがその時々の景気の拡大や後退の勢いを示していると見ることも出来る。なお、月次のCIの動きには不規則変動の影響もあることから、基調を見極めるには、3ヶ月移動平均などによってならしてみることも必要となる。
続いて、景気動向指数を基に我が国の景気の転換点が正式にどのように決定するかを解説する。内閣府では、景気が山や谷を迎えた月(景気基準日付という)を公式に設定している。これは、景気動向指数の動きを基に、他の経済統計や専門家の意見を総合的に加味して決められる。この際には、景気動向指数を加工した「ヒストリカルDI」という指標が作成される。これを簡単に説明すると、一致指数を構成する個々の指標ごとに山谷を設定して、新たに一致指数を作り直したものである。具体的には、統計的な手法に基づき「一致指数」の構成系列の山・谷を決め、拡張期を1、後退期を0に変換して新たに作成した一致指数が「ヒストリカルDI」となる。そして、これが示す拡張期と後退期の分岐点が景気の山や谷となる。
ただ、この指標である月が景気の山や谷と判定されるためには、統計的な理由からそれ以降の6ヶ月のデータが必要になるため、景気基準日付の決定にまではかなりの時間がかかる。このため、専門家の間ではできるだけ早期に景気の転換点を捉えるために、実質GDP成長率が2四半期連続でマイナス成長になった場合に、その前の四半期を境にして景気が下降局面に向かったと判断する目安としている。こうした簡便的な判断による景気後退の判断を一般的に「テクニカルリセッション」と呼ぶ。ただし、この基準で過去の局面を判断すると、過去に2回ほど本当は景気が後退していないのに景気が後退したと読み取れてしまう局面がある。従って、景気の転換点を早期に判断する際には「テクニカルリセッション」だけではなく、日銀短観等の動向も含めて総合的に判断する必要がある。
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